社会人がうつ病になってしまった時、仕事を続けるべきか転職するべきかの選択は今後の人生を左右するだけに、なかなか決断できない問題です。
今の仕事をしているのはとても辛いけれど、うつ病の自分が転職活動をしたところで採用してくれる会社などないかもしれない。そう考えて無理に今の仕事を続けてしまう人はとても多いのですが、この選択はとても危険です。
うつ病の治療に大切なのは心と身体をしっかり休養させることと、発症原因となったストレス環境から自身を遠ざけること。うつの原因が仕事に関係していた場合は特に、そのまま働き続けるという行為は自分のうつ病を悪化させようとしているようなものです。
しかし仕事を辞めたことで先の見えない不安に陥ってしまっては、治療の効果もなかなか出ません。回復を目指す時に最も必要なのは、仕事を辞めたとしても社会復帰できるという自信と安心ではないでしょうか。
そこで、「うつ病になった人が転職を成功させるためのガイドライン」を作成いたしました。現在うつ病で仕事を続けるのが辛い、しかし辞める勇気も出ない…そんなあなたが自分のために一歩を踏み出す、そのサポートとなれるよう願っています。
【関連記事】
>>試用期間中に辞めたい!退職するメリットは?嫌なら辞めて転職すればいい
うつ病の人が転職に成功するコツ
一昔前は特殊な病気のイメージを持たれていたうつ病も、現在では国民病と言われるほどに身近な病気です。うつ病を始めとした精神疾患は日本人の5人に1人がかかるという統計も出ていて、決して珍しい病気ではないのがわかります。
うつ病治療のために退職する人も、回復して再就職している人もたくさんいます。うつ病が原因で仕事を辞めるのは決して社会からのドロップアウトではないですし、それから別の仕事に就くことも難しいことではありません。その点においては、まず安心してくださいね。
しかしせっかく再就職できたとしても、長続きせず転職を繰り返すようでは社会復帰成功とは言えません。どうすればうつ病を経験した人でも安心して長く勤められるような転職先を見つけることができるのでしょうか。
実はうつ病からの「転職成功」を目指すのなら、押さえておきたいいくつかのコツがあるのです。これらを意識して転職活動に臨めば、理想的な転職先を見つけやすくなります。
転職後うつ病の再発しない仕事を選ぶ
うつ病は回復したとしても再発しやすいのが特徴のひとつであり、その再発率は半数以上といわれています。新しい仕事を始めてもまたうつ病になってしまうのでは、せっかく転職した意味がわからなくなってしまいますよね。
転職を成功させるコツのひとつは、うつ病が再発しない仕事を選ぶこと。そのためには、うつ病になりやすい仕事とそうでない仕事を慎重に見極めましょう。
・常にノルマ達成のプレッシャーを抱える営業職
・激務でありながら責任感とミスのない仕事が求められる医療や介護職
・理不尽な要求を直接ぶつけられる機会の多い接客業
これらの職種は一般的にストレス指数の高い仕事として知られています。よほどその仕事内容が好きで自分に合うと思える場合でない限り、うつ病再発リスクの高い仕事と考えられるため避けたほうが無難です。
また、求人数が多く目に付きやすい仕事にも注意しましょう。常に求人しているということはそれだけ辞める人が多い仕事だということです。人が仕事を辞める時、給与面の不満よりもストレスが原因である割合の方が高いというデータがあります。離職率はその仕事のストレス度合いを計るバロメーターになるのです。
実際に働いている、もしくは働いていたという人の話を聞くことができれば、それが一番参考になりますね。対面よりも顔の見えないインターネット上などの方が赤裸々な経験談を知ることができますから、口コミ掲示板などを活用するのも賢い方法です。
前職と似た環境は避ける
一般的にストレスの多い仕事とされていなくても避けるべきなのは、あなたがうつ病になった状況を再び経験してしまうこと。職種で判断できるとは限らないのがポイントです。
全然違う職種に転職したのにうつ病が再発してしまうケースは、この判断を間違えていることが多いのではないでしょうか。やはり一度発症の原因となった状況と似た環境にいると、辛かった経験を思い出して再発のきっかけになってしまいます。
例えば人間関係がギスギスしていたのがうつ病になる原因だった、そんな人は前と同じ職種を選んだとしてもチームワーク重視で雰囲気の良い職場を見つけられれば、再発リスクはぐっと減るのです。好きで選んだ職種だったのなら、諦めなくても大丈夫。
重視するべきは「あなたが何に心の負担を感じていたのか」それを分析して上手に避けることです。何を辛いと感じるのかは人それぞれ、一般論に振り回されずあなた自身の心に聞いてみましょう。
日本人は根性論が大好きなので、無責任な他人からは「苦手なことから逃げていたら社会人失格」などと言われたりもします。何もかもから逃げていたらそうかもしれません。しかし心を病むほどの負担であれば人生において不要なものですし、そんな思いをしなくても問題なく人は生きていけます。
間違ってもIT業界に転職すると再度うつ病になる?
うつ病経験者の転職先としてもっとも避けるべきと言っても過言ではないのがIT業界です。現代的で格好良い仕事のイメージで捉えられがちですが、実はうつ病による退職・転職者が圧倒的に多い職種という統計があります。
IT業界は規模が大きくなったがゆえに競合が激しく、短い納期で膨大な仕事量に追われ長時間の残業や泊まり込みが常態化しています。加えて一日中パソコンと向き合っている環境など、うつ病になりやすい条件がいくつも重なっているのです。
もちろんすべてのITマンがうつ病になるわけではありません。太陽光に当たってうつの原因となりやすいセロトニン不足を回避したり、運動やストレス発散を心がけ体調管理に気を使い健康に働いている人も存在しています。
ですがそこまでの対策をしてIT業界にいられる人というのは元々メンタルの強い人でもありますし、うつ病を経験した人がわざわざ選択する転職先としては再発リスクが高すぎるでしょう。
まずは休職してうつ病の症状を改善してから転職活動をする
うつ病と診断された場合に、まず何より優先して取り組むべきは治療です。転職を視野に入れるのは、治療が上手くいき日常生活が安定して過ごせるようになってからにしましょう。転職活動自体も、うつ病の症状が改善してからのほうが成功しやすいです。
しかし仕事が原因でうつ病になってしまった場合、その仕事をしながら治療を開始してもあまり効果は出ず、悪化していくことすらあります。常に病気の原因の中に身を置いている状態なのですから、当然といえば当然ですね。
ではうつ病と診断された人たちはどのような手順を踏んでいる人が多いのでしょうか。独立行政法人労働政策研究・研修機構が2012年に調査して発表したデータによれば、8割以上がとりあえず休職するという選択をしています。
まず休職して仕事から離れ、その間に治療を進めるのがおすすめです。いきなり無職の状態になるより精神的な不安感も軽く、治療に専念しやすいでしょう。
収入面に関しては、健康保険に加入している上でいくつかの条件を満たすと、傷病手当を申請可能です。それにより給与の3分の2程度は確保できます。生活の心配が減るのは安心して治療と向き合える要素になりますよね。
忘れてはいけないのは、休職するのは治療を経てゆくゆくは転職活動をするためだということです。
症状が良くなってきたからといって今の仕事に復職しても、環境が変わらない限りいずれまたうつのスイッチが入ってしまいます。
もし今の職場とこれ以上関わりたくないというほどに追い詰められているのなら、きっぱり退職を選んでも大丈夫です。金銭面は失業保険も使えますし、治療してから転職活動をすれば良いのも同じです。何よりあなたにとって気持ちの負担が少ない方法を優先して選びましょう。
焦って転職しても失敗するだけである
生活のことを考えると「早く転職しなければ」と気持ちが焦ってしまうのも当然です。しかし多少回復してきたからといってすぐに転職活動を始めてしまうと、結果として失敗しやすくなります。
前述しました通りうつ病はとても再発しやすく、治療の経過も一進一退です。調子が良いなと感じた次の瞬間、ふとしたきっかけで過去最低に気分が落ち込むなんて事例も珍しいものではありません。転職活動は少なからずストレスを伴うものですから、無理をすれば再就職先が決まらないうちから再発してしまうことだって考えられます。
回復の度合いに関しては決して自己判断せず、必ず治療を受けている医師やカウンセラーに診てもらってください。転職活動を開始するタイミングも、医師の指示に従いましょう。
焦りはうつ病治療に悪影響しかありません。なるべく早く転職を成功させたいのなら、まずは治療だけに専念することです。そしていざ転職活動をする時にも焦って決めるのではなく、自分に合う仕事をのんびり吟味して探すくらいの意気込みで取り組むのが成功のコツですよ。
うつ病はバレる?転職時にうつ病であることは言うべき?
転職活動を始めた際に気になるのは「転職先に自身のうつ病を伝えるべきなのかどうか」です。伝える義務があるかということなら、就職先に自身の病気を伝えておかなければいけないという明確な決まりはありません。
マナーや礼儀という点では、うつ病に限らず「業務に支障が出る状況が予想される病気であれば伝えておく」というのが一般的でしょうか。しかしそれも、現在も症状がある病気である場合の話です。
企業側も当然、うつ病は再発しやすい病気であると知っています。そして見た目では完治しているかどうかの判別がつきにくい病気でもあるため、あなたがうつ病を経験しているという情報が伝わると採用してもらえる確率はかなり下がってしまうのが現実です。
ちゃんと治療を経て日常生活や仕事に問題がないくらいに回復しているのであれば、わざわざ不利になる情報を転職希望の会社に伝える必要はないでしょう。
何だか騙すようで気が引けるという人は、うつ病ではない他の病気や怪我に置き換えて考えてみてください。2週間前にひどい風邪を引いていたとしても、現在は治っていてちゃんと動けるのなら、これから一緒に働く相手にわざわざ伝える必要はないですよね。
転職先にうつ病を黙っていたとしても、後からバレる可能性はかなり低いですから安心しましょう。医者には守秘義務がありますし、前の会社での傷病手当受給などの情報を外部の人間が調べることはできません。
うつ病に理解のある会社を転職先にする
うつ病がバレた時のことがどうしても不安、うつ病のことを知った上で接してもらったほうが気が楽という人の場合は、思い切ってうつ病であることをオープンにして転職活動をするのも手です。
始めからうつ病のことを知っておいてもらえば取り繕うことに気力を使わなくて済み、転職後の精神的な負担を減らせます。働く中で調子が悪くなりかけた時に、すぐフォローをお願いしやすいというメリットもありますね。
もちろん、うつ病をカミングアウトすれば転職活動で採用される可能性は下がります。世の中にはうつ病に理解のある会社が少しずつ増えてきているとはいえ、全体で見ればまだまだ数は少ないのが現状です。時間をかけて、のんびり地道に探すつもりで行きましょう。
うつ病に理解のある会社は大まかにいえば2パターンあります。知っておけば手当たり次第に応募するよりも成功率は上がるはずです。
1つはメンタルケア専門のカウンセラーがいたり、社内に相談窓口を設けていたりする大きめの企業。こういった企業はパワハラ・セクハラ対策などへの意識も高く、うつ病が再発しにくい環境でもあります。
もう1つは社長が脱サラして起業した小さめの会社です。脱サラ組は会社内で何かしらの壁にぶつかって辞めた人が多く、中には社長本人がうつ病経験者という場合もあります。そうであれば当然うつ病に理解がありますし、同じ立場の人間の社会復帰を応援したいと考えてくれる人もいるでしょう。
やる気があることを存分にアピールして、安心して働ける職場を掴み取りたいですね。
30代後半40代でうつ病の人の転職活動
20代の若い人では転職に抵抗がない人もいますが、30代後半から40代にもなるとなかなか決心がつかない人の方が多いようです。ここまで積み上げてきた立場や年収をリセットすることになるのですから、慎重にもなりますよね。
この年齢から新しい仕事が見つかるかという不安も大きいのではないでしょうか。確かに転職市場では、若い人の方が需要があるのも事実。それでも40代前後の人の転職が不可能というわけではなく、探せば若い人より経験を積んでいる人を求めている業種だってあるのです。
給与に関してはやはり転職前よりダウンしてしまうケースがほとんどではあります。しかし、うつ病を抱えたまま今の会社にしがみつく苦痛を考えれば、充実した第二のスタートを目指すことの方がずっと魅力的ですよね。
年齢を重ねるほどに求人の件数が減ってしまうのも確かですから、40代前後でうつ病になった人ほど迷わず治療を開始して早めに転職活動に移行できるようにすることを薦めます。