転職と言えば「若者の特権」というイメージがありましたが、年々、50代前後を中心とした中高年層の転職市場が活発になっています。
50代をはじめとした中高年の転職が増えてきた主な理由は、2013年に改正された「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」です。これによって、かつては60歳で定年退職というのが一般的だったところが、65歳まで年齢が引き上げられました。
若い人から見ればわずか5年に見えるかもしれませんが、定年間近の50代から見たら「あと5年も現役なのか」と思うのも無理はありません。そうなれば、今の職場のままでいいのかと自問自答して、転職活動を始めるのも自然な流れと言えます。
転職サービスで知られるエン・ジャパンがミドルの求人動向に関する調査をしたところ、今後も中高年層の転職市場は活発になるという見込みだそう。理由は次の通り。
・若手不足で採用人材の年齢幅を広げている
・既存事業拡大に伴う経験者募集が増えている
・新規事業立ち上げに伴う経験者募集が増えている
これを見たら、50代でも簡単に転職ができると明るい気持ちになる人もいることでしょう。しかし50代の転職は難しい面も多く、成功させるためにはいくつかのハードルを乗り越えなければいけません。
まずは50代の転職が難しいとされる理由を説明しましょう。
50代の転職は厳しい理由
50代の転職が難しい一番の理由は何と言っても、「転職は若い人の方が有利だから」です。どんなに中高年の転職が活発化しても、この傾向は変わらないでしょう。
優秀な人材が長く定着してほしい企業側は、当然ながら先が長い若者を優先して採用したがります。年代別に見れば20代が圧倒的に有利で、30代でも転職が困難になるのが正直なところです。
それに加えて、若い人は転職に必死です。もしかしたら50代の転職よりも必死かもしれません。
若い人が必死に転職する理由はいろいろです。結婚や育児が控えている、老後の貯えがしたいなど、ライフプランに関わるものが多いですが、それ以上に若い人を突き動かしているのが「実力主義」という今のビジネスシーンにあります。
50代の人が若かったころは年功序列で、能力の有無に関係なく歳を重ねれば給料も増えていましたが、今ではそうはいきません。
しかし逆を言えば、能力を活かせる場所に行けばもっと給料が増える可能性があります。だからこそ若者は必死に転職するのです。
こういう傾向があるからこそ、転職する若者は優秀な人が多いです。そんな若者に立ち向かわなければいけないのが、今の50代の転職なのです。
年齢によるハンデに加えて、50代の転職には経験を積んできたからこそのハードルがあります。それが次の2つです。
・給料の相場が高くて雇いにくい
・新しい環境に対する適応力が低くて職場に馴染みにくそう
50代ともなれば、多くの人が役職を与えられて高水準の給料をもらっています。そんな人に対して企業側も若者と変わらない低水準の給料を提示しにくいのが現状です。
また、50代の大ベテランと言えども転職先でも今と同等のポジションを与えられる保証はありません。場合によっては年下上司のもとで働くこともあり得ます。そういった環境への適応力の低さが懸念されているのも、50代の転職を難しくしている要因です。
かつての役職や過去の栄光にすがらず、プライドを捨ててでも新しい職場で1からキャリアを築く覚悟はあるか?そこが、50代の転職の成功・失敗の分かれ目になるといっても過言ではないでしょう。
中高年層の転職は、「人員整理などによって職場での居心地が悪くなった」という動機が多いですが、転職先でも決して思い通りの職場環境が得られるわけではないということを念頭に置いておくのが賢明です。
50代が転職を成功させるには
「転職市場では20代30代の若者と同じ戦場で戦わなければいけない」「転職先の企業では、プライドを捨ててでも新しい環境に適応することが求められる」…これらのことに覚悟を持てたら、実際に転職活動へ移りましょう。
50代の転職はハードルが高いとはいえ、完全に不可能というわけではありません。現状を踏まえた上で、効果的に自分をアピールすれば転職を成功させることができます。だからこそ、中高年層の転職は年々活発化しているのです。
50代の転職では、「若者にはない経験をアピールすること」と「未知の分野も柔軟に受け入れること」という真逆のことを両立できた人が成功します。具体的な方法を5つ紹介しましょう。
過去の経験を活用する
50代の人が若い人に体力やパソコンスキルで対抗しても、勝つことは難しいでしょう。50代が若い人に圧倒的に勝てるのは、やはり経験です。これまで培ってきた経験やスキルを見直して、応募先の企業に対してどのエピソードを伝えれば効果的か戦略を練りましょう。
50代の転職で経験を活かすというと、過去の栄光を並べれば良いのかという人がいますが、これでは逆効果です。過去の栄光よりも注目すべきは、「仕事の失敗談」です。
失敗談は一見マイナスの要素のように思えますが、その人らしさを知ることができる重要な情報源という一面があります。山あり谷ありの経験を積み重ねてきた50代だかこそ、若い人にはない濃厚な失敗談があることでしょう。
自分が若手だったころにやってしまった失敗談、上司になって部下を持ってからの失敗談、役職を与えられた後にやってしまった失敗談などを掘り返してみましょう。
ここで重要なのが、「仕事での失敗を通して何を学び、どう活かしたのか」「失敗や挫折経験をバネにしてどのように自分を成長させたのか」というエピソードまでしっかり掘り下げることです。
失敗を失敗で終わらせた話だけでは、当然ながら応募企業から内定はもらえません。たくさんの経験を積んで、失敗から学んで若者にはない経験を身につけたのであれば、それは大きな武器になります。
仕事での失敗談は転職の面接でよく聞かれる質問でもあるので、しっかりと向き合ってみてください。
派遣社員や契約社員でもいいと割り切る
20代や30代と比べると、やはり50代の正社員の求人は少ないです。そのため正社員だけを狙うと、さらに転職が難しくなります。
これまで正社員で働くのが当たり前と思ってきた50代にとっては少し抵抗があるかもしれませんが、派遣社員や契約社員といった非正規の求人も視野に入れることをおすすめします。
>>正社員より派遣社員はどっちがいい?派遣社員で働くメリット
今さら派遣社員や契約社員で働くなんて‥と思う50代の人もいるかもしれませんが、総務省統計局による「労働力調査(2018年)」によると、非正規の職員・従業員が多い年齢階級は65歳以上に次いで55~64歳が多いのだそうです。
50代後半から60代にかけての年代にとっては、非正規雇用で働くのがスタンダードとして確立しつつあることを示しています。
派遣社員や契約社員の求人も視野に入れれば、職種や業界の幅が広がるので応募できる求人が増えます。それだけ早く転職が決まる確率も高くなるでしょう。
どうしても正社員にこだわりたいのであれば、少ないチャンスにかけるか、事業の経歴がまだ浅い企業に絞って応募するしかありません。
大手や業績が十分にある企業には同年代のベテラン社員がたくさんいるので採用される可能性が低いだけではなく、採用後に満足できるポジションにつけないケースが多いことも覚えておきましょう。
あえて未経験分野に挑戦する
長くひとつの企業に勤めてきた人の中には現職以外の職種や業種は考えられないという人もいるかもしれませんが、求人が少ない50代だからこそ、今までは関わりのなかった未経験の分野に挑戦するのもひとつの手です。
電通総研の調査によると、男性の約72%、女性の約55%が定年後も仕事を継続しているのだそう。欧米では定年制の廃止や年齢の引き上げが目立っているので、日本も生涯現役として働く可能性が否定できません。
これらを踏まえたら50代から未経験の分野に挑戦し、新たなキャリアを築くのも遅すぎることはありません。
50代の未経験者を採用してくれる職種や業種は限られますが、中堅・中小企業であれば転職できる可能性があります。
中でも注目したいのが、多角的な事業展開を繰り広げているIT・インターネット業界です。ネット業界のトレンドを把握し、柔軟に対応しながらリーダーシップを発揮できるマネジメント職に中高年層の人材が求められています。
このほか、建設・不動産、流通・小売・サービス、介護・福祉といった業界も比較的転職しやすいです。職種としては、営業や接客、軽作業、ドライバー、清掃員、警備員などが狙い目です。
未経験の仕事であっても現職の経験を活かせる部分はあるので、そこを中心に自己アピールをすれば採用される可能性が高くなります。
過去の人脈をフル活用する
若い世代と比べて広い人脈があるのも50代の強味です。転職を成功させようと思ったら、これまで築いてきた人脈をフルに活用しましょう。
最近は起業する人が多く、できたばかりの企業は人手不足かつ経験不足であることが多いです。そういった企業にさまざまな経験をしてきたベテランの50代が入社してくれたら、頼りがいのある戦力になります。
中にはプライドが邪魔をして「転職先を探しているなんて言えない」という人もいるかもしれませんが、こうした意外なところに転職のチャンスが転がっていることも十分にあり得ます。ただでさえ難しい50代の転職ですから、プライドを捨ててでもチャンスはつかむべきです。
人脈は転職先を見つけるのに役立つだけでなく、「自分を採用したらこんな人脈を活かして会社に貢献できる」というアピールポイントにも使えます。高飛車な言い方にならないように気を配りながら、上手に伝えましょう。
ただし、人脈を使って転職するときには注意すべきことがあります。それは、今の職場の人に気づかれないようにすることです。
世代を問わず、転職活動は現職中にばれずにするのが鉄則ですが、人脈を使って転職する場合は特に職場の人に気付かれないように意識しましょう。
今の職場で築いてきた人脈を使って転職しようとしているのが分かってしまうと、非常にばつが悪い思いをします。職場の居心地悪くなるだけでなく、転職を阻まれる可能性があるので十分に注意してください。
あきらめずに数を打つ
50代に限らず、今は何社も受けて転職先を決める時代です。毎年の新卒採用で学生が何社も面接を受けている様子をご覧になっていることと思いますが、学生たちの就職活動のように転職活動もたくさんの会社に応募する必要があります。
1~2社受けて内定を貰えなかったからといって、もう無理だと諦めてはいけません。そのため、転職活動には数か月かかるのが一般的です。
若い世代よりハードルが高い50代の転職活動なら、なおさら応募企業の数も期間も増える可能性があります。すぐに結果が出ないのが当然だということを心得ておきましょう。
かと言って、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるという考えで何社も応募するのは得策ではありません。転職を成功させるには企業研究や業界研究をした上での自己アピールが必要ですが、応募件数を無鉄砲に増やすと、こうした研究が十分にできないためです。
当然ながら採用される可能性も低くなり、悪循環に陥ります。ハードルが高い50代の転職は、諦めないことと同時に「これだ!」と思える企業に絞り込んで戦略的にアピールすることが大切です。
しかし、自分だけではどの企業に応募すれば良いのか人も多いことでしょう。自分だけで転職活動をするのは非効率なので、こうした場合は転職のプロである「転職エージェント」を活用するのがおすすめです。
転職エージェントに相談すれば、どういった自己アピールが効果的か教えてもらえたり、職歴や適性を踏まえた自分にピッタリの企業を非公開求人を含めて紹介してもらえたりします。
50代の人は自分が就職活動したときの書類作成や面接対策だとやり方が古すぎる可能性が高いので、今の転職活動の仕方をアドバイスしてもらうのも良いでしょう。転職活動が初めてだという人は、職務経歴書の書き方も教わりましょう。
若い世代と比べて悠長なことはいっていられない50代だからこそ、転職のプロのアドバイスは大いに役立ちますよ。
転職エージェントは総合的に求人を扱っているもののほか、特定の職種や業界、年代等を得意分野としているところもあります。最近では中高年層の転職が増えたことから、40~50代向けの求人をメインとした転職エージェントも存在するので、自分に合いそうなところを複数登録するのがおすすめです。