若いときほど転職に有利というのは、景気の良し悪し関係なくいつの時代も変わりません。その中において30代は中途半端な年代で、若いとは言い切れないものの歳を取り過ぎたとも言えず、まだ転職に間に合うかと悩む人は多いことでしょう。
転職市場は年々活発になっており、1990年代以降からずっと転職者の数は増加の傾向にあることも30代の「転職したい」という気持ちを後押ししています。
厚生労働省の「平成29年雇用動向調査結果の概要」によると、30代前半の転職入職率は男性で10.2%、女性は13%だそうです。30代後半になるとやや減少しますが、それでも男性8.9%、女性は11.7%を記録しています。
30代で転職した理由で男女共に多いのが、「労働時間、休日等の堂々条件が悪かった」「給与等収入が少なかった」というものです。結婚や育児、介護などライフプランを考えたときにサービス残業や休日出勤が多く、有給が取りにくい安月給の会社では働きたくないと考えるのはうなずけます。
こういった、より良い労働環境を求めて転職する人は、現職でのキャリアを活かしてステップアップする人が多数です。これまでのスキルを売り込む転職は、即戦力を求められる30代の転職の定番とも言えるでしょう。
しかし中には、未経験の分野で1からキャリアを築きたいという人もいるはずです。彼らは30代の転職において少数派となりますが、未経験の分野に転職するのは厳しいのでしょうか?30代でも未経験の分野に転職するために知っておくべきコツを解説します。
30代未経験業種(職種)の転職は厳しいの?
「30代が未経験の業種(職種)に転職するのは厳しいのか?」という質問には、「難しいと思っていた方が良い」と答えざるを得ないのが正直なところです。
求人サイトや求人情報誌を見ると、「30代から未経験の仕事を始めるのも簡単!」「30代でも未経験者大歓迎」といったキャッチコピーが書かれている求人広告もありますが、あまり真に受けない方が賢明でしょう。
30代の転職は失敗した場合に取り返すのが大変だからこそ、その辺は慎重に考えるべきです。では、なぜ30代が未経験の分野に転職するのが難しいのか5つの理由を解説しましょう。
未経験歓迎求人の罠
求人サイトや求人情報誌を見ると、見出しに大きく「年齢不問・未経験者歓迎」と書かれている求人広告は本当に多いです。こうした求人広告を見ると「やった、自分のやりたい職種も未経験者を募集している!」とテンションが上がるかもしれませんが、それは甘い罠かもしれません。
ご存知の方もいるかと思いますが、現在は雇用対策法の改正によって求人募集をする際に年齢制限を設けることが禁止されています。たとえば求人広告に「応募資格は20代のみ」と書いてはいけませんし、不採用の連絡をする際に年齢を理由に断ってはいけないのです。
国が決めたことだから建前上は年齢不問・未経験者歓迎と書いているに過ぎない企業があることを忘れないようにしましょう。
応募した企業がまさにこのタイプだった場合、20代の未経験者も多数応募していたら、あなたが不利な立場になる可能性は十分にあります。こうした企業にいくら応募しても、書類審査の段階で落とされるのは言うまでもありません。
建前上は年齢不問・未経験者歓迎と書いている企業は、求人広告や企業ホームページを見るとある程度分かります。次のような傾向はないか、応募するまえに確認しましょう。
・社員の写真を見たらみんな若く、20代が中心のようだ
・40代以降の中高年層が在籍している様子が見受けられない
・若いスタッフが活躍していますと書かれている
・「フレッシュな雰囲気」「勢いがある」など、若さを想像させることばかり書かれている
こういった企業は30代の転職希望者を採用しないというリスクがあるだけでなく、仮に採用してもらっても長く働けないリスクもあります。若い人ばかりというのは、離職率が高いことのサインである可能性があるからです。
数年で辞めるような企業に就くのは、30代からの転職ではおすすめしません。希望する職種で未経験者も受け入れている企業が少ないとしても、このあたりの企業研究は妥協せず行うようにしましょう。
企業の欲しがる人材は即戦力
30代で転職する人が企業に求めるのが「より良い労働環境」なら、企業側が30代に求めるのは1にも2にも即戦力です。
なぜ30代に即戦力を求めるのか、理由は簡単で、20代よりも高い給与を支払うからです。年功序列がだいぶなくなってきたといはいえ、やはり学校を卒業したばかりの20代よりも社会人経験を積み重ねてきた30代の方が給与のベースが高いのは今も昔も変わりません。
この流れからも分かる通り、即戦力にならない未経験者の30代は基本的に必要とされません。30代として高いベースの給与をもらいながら、20代と同じように「未経験だけど勉強させてもらって頑張ります」というスタンスでは、企業側が一方的に存することになります。これでは採用してもらえないですよね。
もともと歓迎されていない30代未経験者という立場でも転職活動する気持ちがあるのか、その後も働き続けることができるのかということをいま一度、自分に問いかけてみましょう。
それでも未経験の分野に挑戦したいのであれば、不利な立場からいかに自分を売り込むかという戦略を立てなければいけません。これについては、次の章で詳しく解説します。
資格より経験値
未経験の分野に挑戦する前に、関連資格を取得しておこうと考える人は数多くいます。確かに資格を取得しておくと「この仕事に対する関心が高いんだな」という印象を持たせることができるので、アピール材料のひとつとしては有効です。
しかし、資格を持っていることが採用を決める決定打にはならないことは理解しておかなければいけません。難関資格であっても、それは例外ではありません。
たとえば、経理の仕事に就きたくて日商簿記2級の資格を取った30代の未経験者が求人に応募したとします。そして同じ求人に資格は持たないけれど経理としての実務経験を5年以上持つ人が応募したとします。その場合、採用される確率が高いのは後者です。
先述の通り30代に求められるのは即戦力。資格を持っていても実務で使った経験がなければ、即戦力とはみなされません。そのため、未経験者が転職を成功させようと思ったら、資格プラスほかの点でも自分の能力をアピールしなければいけないのです。
こうした理由から、資格を取ってから転職活動を始めるのはおすすめしません。資格を取るまでには数か月単位でがかかりますし、無駄な時間を過ごす可能性があるからです。
30代からの転職はスタートが遅れるほど不利になります。それなら資格取得よりも転職活動を優先させる方が賢明でしょう。
どうしても資格を取りたい場合は、転職活動とうまく両立させるようにしましょう。資格を取得していない段階でも、勉強中であることをアピールするのも自分を売り込むひとつの手です。
30代「後半」の人は仕事を覚えるのに苦労する
未経験分野への転職は、30代後半になるとより難しくなります。企業側に次のようなイメージを持たれることが多いからです。
・考えに柔軟性がなくなる
・記憶力や体力が落ちている
・新しい環境への適応が20代の頃より苦手になる
・プライドが邪魔して未経験者として謙虚にふるまえない
・年下上司が多く、自分も周囲も居心地が悪く長続きしない
未経験の仕事に興味を持って転職したものの、いざ働くとなったら年下にあれこれ指示されるのが苦痛になったというのは、30代後半以降だとよくある失敗です。また、ある程度社会人として経験を積んできたという自負があるせいか、仕事で分からないことがあっても謙虚に聞きにいけないといったこともあります。
こうしたトラブルのせいで有望な若手社員に辞められたら企業としては大打撃です。そうなるくらいなら、最初から30代後半の未経験者を雇わないという選択を選ぶのが大多数でしょう。
それに新しい環境に慣れるには体力が要ります。30代後半に新しいことに挑戦すると、20代の頃と同じように体が動かないことに驚かされることもあります。
記憶力は加齢とともに落ちる心配はありませんが、心身に余裕がないと新しい知識を吸収することは難しくなります。30代前半までならこうした心配は少ないですが、35歳以上になるとリスク面の方にばかり目がいってしまうのです。
年収ダウンのケースもある
30代の転職といえば収入アップを期待する人もいるかと思いますが、それはあくまで現職でのスキルを活かせるキャリアアップの転職を成功させた人の場合の話です。
未経験の仕事に転職する場合は、収入ダウンする可能性の方が高いことを覚悟しておきましょう。本来であれば即戦力として働かなければいけない立場にもかかわらず、未経験として1からキャリアを積むという立場になるのですから、30代であっても収入が減るのは仕方がないことです。
場合によっては20代の頃と同程度の収入、あるいはそれ以下になる可能性もあります。さらに職種によっては、まずは派遣や契約社員からといった非正規雇用から始めることになるケースもあるのです。
このように30代が未経験の仕事に転職する場合、やりがいは得られるかもしれませんが収入面ではデメリットが大きくなります。
それでも未経験の仕事に転職したいなら、面接などで収入に関する交渉は避けなければいけません。印象が悪くなって、同じ未経験者なら20代を選ばれてしまいます。収入を上げようと思ったら、転職後に頑張って実績を積むしかありません。
一方で転職に失敗したら、やりがいも収入も失ってしまうのが30代で未経験の分野に挑戦することの怖いところでもあります。
ごくまれに「前職での給与が少なすぎる」「子どもが生まれたばかりなど特別な理由がある」といった事情を考慮して、未経験でも高めの年収を提案してくれる企業もあります。こういったケースは本当に貴重なので、もしもこうした機会があれば絶対に逃さないようにしましょう。
転職活動が長期化することもある
30代で未経験の仕事に転職する場合、通常の転職活動よりも時間がかかるおそれがあります。理由は2つです。
・企業側が選考に慎重になっている
・応募者側の仕事が忙しくてなかなか転職活動に集中できない
これまで述べてきたことからも分かる通り、30代から未経験の仕事を始めるのはさまざまなリスクが付きまといます。失敗が多く長く働き続けてくれるか分からないからこそ、企業側も採用すべきかどうかをより慎重に考えざるを得ないのです。だからこそ、書類審査や面接の結果が出るまでに時間がかかることもあります。
そして30代にもなると社内でそれなりの役職に就き、責任の大きい仕事を任されることも少なくありません。そうなると、自分が今の仕事で手いっぱいになり、転職活動に集中できなくなる可能性もあります。面接は有休を使って行くことができても、書類作成まで有休を使いたくないという人もいますよね。
こういったことから、30代が未経験の仕事に転職する場合は半年ほどの期間が必要になる可能性があります。
求人自体が少ない職種や業種を狙っている場合、応募企業への理想が高すぎる場合はさらに時間がかかることもあるでしょう。その場合は転職に1年以上かかることも覚悟しておきましょう。
>>20代・30代と若いのに半年も1年も転職先が決まらない人の理由
30代未経験でも転職しやすい業種と転職しにくい業種
ここまでの解説を読んで、「30代で未経験の仕事に転職するのは本当に難しいんだ」と落ち込んだ人もいるかもしれません。
しかし、30代で未経験でもスムーズに転職を成功させる裏技があります。それは、30代未経験者を歓迎している業種や職種に狙いを定めることです。
そうは言っても、選択肢はほとんどないんじゃないかと疑う人もいることでしょう。しかし業界や職種を細かく分析すると、30代未経験者を歓迎している仕事は意外と多いのです。
まずは、30代未経験者でも比較的転職しやすい業種の一例を紹介しましょう。
・インターネット、広告、メディア(広告制作、WEBサービスなど)
・商社(アパレル、化粧品、食品、住宅設備など)
・小売(専門店、通信販売、コンビニエンスストアなど)
・外食(居酒屋、ファミリーレストランなど)
・旅行、宿泊、レジャー(旅行代理業、ホテル、アミューズメント施設など)
・理容、美容、エステ
・冠婚葬祭(葬儀、ウェディング)
・介護、福祉
・運輸、物流(宅配便、トラック運送など)
小売の専門店には家電量販店やアパレルショップなど、幅広い店舗が含まれます。それだけでも選択肢が広がりますね。これらの業種のうち、次のような職種は未経験でも比較的転職に有利とされています。
・一般事務
・営業事務
・総務事務
・アシスタント業務
・接客販売
・営業職
事務系やアシスタント業務を目指す場合、基本的なパソコンスキルがあることは大前提となります。これまでの仕事でパソコンを使う機会がほとんどなかったという人も、エクセルやワードといったoffice系は扱えるように勉強しておきましょう。
また、電話応対やメール応対に関するスキルやマナーも身につけておくことも重要です。これらの職種は求人が多い一方で競争相手も多いのが特徴なので、基本的スキルを身につけておかなければ採用までこぎつけません。
>>男性が事務職に転職するのは厳しいの?男性でも事務職に転職できるコツ
一押しは営業職!?
紹介した職種の中でも特に注目したいのが、営業職です。営業職は全般的に未経験者を歓迎しており、ここに記載していない業種であっても30代未経験者が採用される可能性があります。
オフィスを飛び出してバリバリと働くイメージがある営業職に、良いイメージを持っている人もいるかもしれません。しかし、未経験者が歓迎されるのにはそれなりの理由があります。多くの企業に共通しているのが、営業職は離職率が高いというものです。
ノルマを課される、営業成績が社内で公開される、歩合給で収入が変動するといった理由からプレッシャーを感じて辞めてしまう営業はある程度います。そのため常に人不足で、30代未経験者でも採用されるのです。
ただしこれだけを理由に営業職は辞めた方が良いとは一概には言えません。営業職は合う・合わないがはっきりしているので、ピタリとはまれば収入をアップさせたり、30代未経験からでも出世したりということができるというメリットもあります。
営業職が向いている人には次のような傾向があります。当てはまる点が多い人は、営業職に挑戦してみると良い結果が出る可能性があります。
・人との会話が苦痛ではなく、コミュニケーション能力が高い
・こまめな連絡が苦にならない
・結果が出るまで忍耐強く待ち続けることができる
・新しい人と出会うのが楽しいと感じられる
・臨機応変な対応が得意である
・好奇心旺盛でチャレンジ精神がある方だ
・フットワークが軽い
・自己管理能力に長けている
営業職は人と接する時間が多いので、1人で黙々と作業するのが好きな人には向いていません。また商談の答えがすぐに貰えるとは限らないので、根気強く待ち続けられる精神力や体力も求められます。
そして営業職は外出中の行動まで細かく監視されているわけではないので、待ち時間などの過ごし方は比較的自由です。そこで社会人として誤った行動をしないといった自己管理能力も重視されます。積極的に目標を立てて仕事をできるモチベーションの高い人の方が向いているでしょう。
転職を成功させるコツ
30代未経験者でも選択肢が多いと分かると、かえってどんな業種や職種に転職すればいいか迷ってしまうという人もいることでしょう。
そういった場合は、企業研究をして将来性があるところや成長企業として評判なところを優先的に応募してみましょう。こういった企業や常に新戦力を待っているので、30代未経験者が歓迎されやすい傾向にあります。ニュースをチェックして、需要が高まると予測される業種を狙うのも良いですよ。
一方でこれだけはしてはいけないというのが、企業研究をせずに転職のしやすさだけを重視して応募先を選ぶことです。ブラック企業に応募してしまったという失敗をやりかねません。ほかにも転職を成功させるコツを紹介しましょう。
>>ブラック企業に転職してもメリットなし!求人サイトと面接時にブラック企業を見分ける
前職の経験やスキルを活かせる業種にする
業種か職種のどちらに前職との共通点があれば、うまく自己アピールできるので採用される可能性が高くなります。
たとえば、アパレルショップで接客販売をしていた人がアパレルメーカーの営業職に転職する、あるいはアパレル系の通販サイトの運営スタッフになるといったケースです。
よほどのこだわりがない場合は、業種か職種のどちらかに共通点を持たせましょう。
職業訓練校に通ってスキルアップする
これまでの仕事と全く縁がない分野の仕事に就きたい場合、職業訓練校で基本的なスキルを身につけるという選択肢もあります。
職業訓練校に通ったことで応募先に熱意をアピールできる、職場体験を通して仕事に対する理解が深まるといったメリットがあります。
しかし、職業訓練校は原則として離職していないと通えません。また、訓練期間が数か月単位と長いので転職を終えるまでに時間がかかります。
これらのリスクを避けたい場合は、土日限定などで実施されている在職者訓練を選ぶと良いでしょう。
30代で未経験なだけに志望動機は明確にする
30代で未経験の仕事に転職する人は少数派です。だからこそ面接で「なぜこの年齢でうちに応募したの?」と聞かれることが多々あります。ここで憧れや好きだからといった漠然とした志望動機を言ってしまったら、間違いなく不採用となります。
これからどんなキャリアを築きたいのか、これまで培ったスキルをどう活かしたいのかを具体的に話せるようにしておきましょう。業種や職種に前職との共通点があれば、志望動機を考えるときに有利ですね。
嘘にならない範囲なら、多少大げさに話しても構いません。頭の中で考えをまとめるだけではなく、実際に話してみて簡潔に説明できているかを確認すると良いですよ。
30代の転職は不利ではありません
30代で未経験の仕事に転職する人は少数派ですが、決して不利であるということではありません。
仕事の選択肢が多いことが何よりの証拠。30代からは転職が難しい、30代から未経験に挑戦するなんて無謀だというイメージが先行しているに過ぎないのです。
最後に求められるのは自己アピール力。これまでの社会人経験が、応募先企業にどのように役立つかを具体的に説明できるほど内定は近づきます。
少しでも効率的に転職を成功させたいのであれば、プロと一緒にスキルの棚おろしするのがおすすめです。自分のスキルを客観的に分析するのは意外と難しいので、プロの目線を通すことで自分で気づかなかった能力を見つけられる可能性があります。
転職のプロの力を借りるなら、転職エージェントがベスト。書類作成から面接対策まで協力してもらえるほか、待遇面や入社日などの調整もしてもらえます。転職中のことから入社後のことまでサポートしてもらえるので、30代の転職の心強い味方になりますよ。